東京・根津にあるGallery KINGYO では、2020年2月11日(火)~2月16日(日)まで、土井 直也(どい なおや)の個展「新・虎の衣を借りて着る」を開催。gallery neo_が次世代アーティストを応援する共同企画第3弾として、新・入れ物作家である土井直也の作品が展示されている。
存在しない虎の衣を借りる狐たち
閑静な住宅街。この道で合ってんのかな…と思いつつも、辿り着いたのは大きなガラス戸が印象的なGallery KINGYO (ギャラリーキンギョ)。
近づいて行くと、某ライダードラマの悪役のようなクリーチャーが姿を現す。
二股に割れた頭部に、鋭い爪、ガニ股の足。そこには人間に近いようで、人間とはほど遠い生物が存在する。このクリーチャーこそが、個展のタイトル名にもなっている、“新・虎”。
と、ら、…?
んんぅ…虎には見えない。
しかし、この虎は正真正銘、“虎”から生まれた。
ギャラリーに入ってすぐ飾られている、虎の頭部。このパターンカッティングはすべて繋がっており、1枚の布=平面に形を変えることができる。そしてそのパターンカッティングのイメージを膨らませて生まれたのが、新・虎なのだ。
虎の頭部を解体し、骨とも言える部分から、新たな虎が再構築される。さらに、入れ物として再生された新・虎の入れ物=服が作られる。そして、その服を人間用にリメイクすることで、私たちはフィクションの生物の入れ物を身に纏う。
空想上の生物の服を着る時、私たちは自分の皮膚の上に、新・虎の皮膚を重ね合わせる。
新・入れ物作家、土井直也
留学先のイギリスで「モノ」の曖昧さと信憑性について研究した土井は帰国後、自分の立ち位置をデザイナーでもなくアーティストでもなく、新・入れ物作家と称することにした。
入れ物というと、小物入れや茶碗など、実際に生活の中で使える物を想起してしまうが、土井が作っているのは用途のある入れ物ではなくて、“無いモノを包む”という概念の入れ物。だからこそ、同展で展示されている虎は虎に見える何かの入れ物で、虎の解体後に生まれた新・虎は虎がいないということの入れ物で、新・虎のための衣服は新・虎のための入れ物で……と、入れ物が生まれる余地が永遠に続く。
土井が初めて新・入れ物を作ったのは、2016年。人間のトルソーを分解し、再構築されたのは、四足歩行の生物だった。トルソーが徐々に分解され、その骨たちが平面に置き変えられた時、新生物という入れ物が生まれた。人間のトルソーが解体され、骨にも見える分解品から全く別の生物が生まれる時、基となるトルソーのあまりの流動性に、私たちの固定概念は揺さぶられることとなる。
モノはそれを見る人々の個人的な“認識”という名のレイヤーによって作られている。モノを認識する人の数だけそのレイヤーは幾重にも重なり、モノのカタチを決めている。(中略)目に見える全ては相対的で、一時的な空のパッケージでしかない。
《Relative human body /身体の入れ物》コンセプト
ツギハギだらけのその身体は、人が本質だと思っていたモノの一部を切り貼りしたパッチワークのようで、本質だと思っていたものが実はモノを表す一片でしかないことに気付かされる。だからこそ、確固たるものだと思っていた本質(=土井曰く、実は存在すらしていないもの)も変化する。その時、その時代に真実だと思われていた概念が、次の瞬間には偽物に変化するように。
そんなパラドックスを孕んだ人間の営みが、土井の作品には凝縮されているようだ。
人間に近づきたい新・虎のいじらしさ
作家・土井の意向とはまったくもって関係ないのだが、個人的にこの新・虎が好き。
人を脅かそうとしているような手の曲がり具合、ボコっと飛び出た関節、若干抜けてる感が漂う後ろ姿、甲殻類っぽいフォルムなのに近くで見ると柔らかそうな質感。人間に近づきそうで、近づけない新・虎の悲しさが滲み出ているように、見えなくもない。
Ka、wa、i、i。
特に可愛いのが、その躯体に似合わない小さな足。
イヤ、絶対カラダ支えれんやろ
という感じのピョコンとした足が可愛さに拍車をかけている。虎の解体図から二足歩行の生物にしようと決めた土井だったが、足のあまりの小ささに少々困ったらしい。が、結局そのまま二足歩行生物にすることにして、今の形になったという。
土井さん、GOOD JOB.
パンフレットに書かれていた「果たして新・虎はいるのか」のフレーズ。「私」という、相対的でそれでいて絶対的な人間の入れ物にとっては、確かに新・虎が存在している空間でした。
それではみなさん、虎だ!虎だ!お前は虎になるのだ!
土井 直也(どい なおや)
北海道生まれ
2006年桑沢デザイン研究所卒業
2007〜2013年 アパレル勤務(パタンナーとして)
2014年 留学のため渡英
2016年 University for the creative arts MA Textiles 修了
2017年〜 女子美術大学 ファッションテキスタイル 研究室助手
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土井 直也個展「新・虎の衣を借りて着る展」
会期:2020年2月11日(火)~2月16日(日)
時間:12:00~19:00(最終日17:00 迄)
会場:Gallery KINGYO(ギャラリーキンギョ)
住所:東京都文京区千駄木2-49-10
観覧料:入場無料
作家在廊日:15日(土)、16日(日)
共同企画:gallery neo_(ギャラリーネオ)
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