初めて開催された2015年から今年で5回目を迎える「廃墟展」シリーズ。2020年という区切りの良い年に開催される「変わる廃墟展 2020」では、15組という大所帯の参加アーティストたちによって、廃墟の様々な美しさを堪能できます。
廃れていくからこそ輝く“廃墟美”
廃墟というと、寂れて、荒れ放題で、物悲しいというイメージが強い場所です。心霊スポットの名所になっている廃墟も多いので、肝試し感覚で行く方も多いですが、世の中には“廃墟”それ自体に魅了される人もいるのです。
かくいう私も、そのひとり。廃れていく侘しさ、時間が止まったような空間、ひんやりと漂う冷気など、人間性を極限までに感じさせない廃墟には、王道の美とは異なる美しさがあります。
しかし、ひと口に廃墟といっても、その切り取り方はさまざま。今回15組という人数の写真家が一堂に会することで、廃墟というニッチな空間でさえ、いかに多くの視点・嗜好があることが分かります。
夫婦ふたりの写真から見える、廃墟美の違い
今回私が廃墟の多面的な美しさに気付かされたのが、hiradeさんとSHIKIBRANDさんのお二方の廃墟写真。初デートが廃墟と化した某トンネルだったというかなり攻めているご夫婦で、同じ廃墟と思われる写真が多数あります。しかしそこには全く違った世界が。
hiradeさんの写真は、腐りかけた床材や、朽ちた材木など、時間の経過を感じさせるものが登場。また、大きく映った窓はまるで額縁のように植物を切り取ります。人の形跡がなくても、取り残されたモノたちによって、埃のように積み重なった時間が現れます。また、材木の優しい色合いが人間の肌のようで、廃墟がもつ艶かしさまで感じられるようです。
一方でSHIKIBRANDさんは、廃墟内をやや上から撮った構図が多いのが特徴。写真の視点が自分の視点と重なる、主観的感覚のある廃墟写真です。床がきしむ音、カビ臭さ、窓から差し込む光のまぶしさ。自分が廃墟を訪れた事を一瞬にして思い出させてくれます。
一緒に廃墟を訪れ、同じ時間に撮影された写真でも、これほどまでに違ってくるのかと、見れば見るほど発見がありました。
廃墟プラス、自然or植物or建築orエトセトラ
hiradeさんとSHIKIBRANDさんのお二人の写真を見てもわかるように、同じ廃墟でも撮影者一人ひとりで、見える世界が全く変わります。
例えば自称「単独廃墟男子」のふゅーりーさんは、鮮やかな色彩がアクセントになった廃墟写真が特徴。建物のピンクや、ランプのオレンジ、絨毯の赤、青空など、寂れて朽ち果てていく廃墟の中で、鮮やかな色彩が浮かび上がるように目に入ります。
また、鮮やかさが残るふゅーりーさんの写真には、人間がいた痕跡がありありと存在。多くのカップルが結婚式を挙げたであろう「女神の住まうチャペル(長野県)」、今にも食事が供されそうな「石造りの館(とある離島)」、子どもたちが駄菓子を買った「タイムカプセル駄菓子屋(某所)」など、廃墟に人の存在や生活感が入ることで、強烈な哀愁が漂います。
一方、気軽に廃墟を堪能できるサイトDepartureさんによる写真は、自然の中で際立つ廃墟の美しさが魅力です。海に漂うように立つ建物や、植物に侵食される捨て去られた船、ガラスを失った窓から見る森など、自然との対比が素晴らしい。もぬけの殻になった廃墟が自然に侵される様は、文明の滅亡ではなく、文明が自然に飲み込まれている様を見ているようで、まるで風景写真のような清々しさがあります。
Departureさんはもともと廃墟を紹介しているサイトで、各地の廃墟を丁寧に紹介。廃墟好きではあるけれど、インドア廃墟派の筆者は、よく拝見しています。
自然系廃墟(勝手にジャンルを命名)でいうと、啝さんは廃墟と星の共演で、大きな人気を集める廃墟家さんです。2015年の第1回「変わる廃墟展」から皆勤賞で参加中の啝さんは、2012年頃から廃墟で星を撮り始めたとのこと。廃墟の上を美しく瞬く、星や雲。そこに存在する廃墟は明らかに人工的な建造物なのに、啝さんの写真にかかると、廃墟から人間性が消えて、神話や物語の世界に昇華されます。
「腐り捨てられているいる退廃美をテーマ」にしていORGANIZEさんの写真は、それよりもさらにファンタジー感満載。得意としているHDR合成を駆使しているだけあって、廃墟という建物やその内部が美しく着飾られ、ゲームの中に迷い込ませるような、恐怖を含んだ美しさが見えます。
「植物との融合が美しい物件を日々求めている」ephemeral 6090さんは、その言葉通り、廃墟が朽ち果てて自然と一体化する様が美しく、そして明るく表現されています。
かと思うと、krampusさんのダイナミックな写真からは、廃墟対人間という対比が窺えます。金曜ロードショーでクロコダイル・ダンディーを見た時からワイルドな男に憧れているというkrampusさん。もしかすると、krampusさんの人間性が廃墟写真にも出ているのかもと思わざるをえません。
廃墟自体の美しさを堪能したいなら、個人的にはえぬびーさんがおすすめ。建物自体の美しさというか、頽れた様の美しさというか……。「美しい廃墟」ではなく、「廃墟の美しさ」をストレートに感じられるような気がします。
男性にも女性にも人気の「廃墟」
今年で5回目を迎える「変わる廃墟展」。新型コロナウイルスでどこもお客さんが減っていますが、「変わる廃墟展 2020」は営業開始とともに続々とお客さんが来ていました。
しかも予想外に、女性のお客さんが多い。カップルで来ている方もいれば、友達と来ている方も、またひとりで来ている女性の方もいました。かくいう筆者も女なので、来場している女性たちに、ひとり勝手に共感。「もしかしたら、あの人も廃墟に行きたくても行けないのかも」と想像を膨らましました。
というのも、SNSや本などで廃墟を見ていると自分も実際に行きたくなるのですが、
山道が怖い、
虫が怖い、
お化けが怖い、
そもそも体力に自信がない
などなどの理由で廃墟を諦めています。スタッフさんにお話を伺ってみると、廃墟に撮影に行った方の中には怖い体験をしたことがある人も多いとのこと。そんな話を聞くと、ますます怖くて行けない……。なので、「変わる廃墟展」のように、他人のファインダー越しでも廃墟に出会える機会があると、廃墟欲が少し満たされるよう。
ちなみに、筆者が唯一潜入したことのある廃墟は、解体が決定した淡路島の「平和観音寺」。もう何年も前の事ですが、茂みをかき分け、階段をよじ登り、真っ暗な建物内に入ったことを今でも鮮明に思い出します。 あの時の背筋をツーッと伝うような寒さ。神経が冴え渡るあの静寂を廃墟展で想い出しながら、廃墟を堪能することができました。
それでは、「いかに廃墟というものがバラエティーに富んだ反応を人々にもたらすか、それを示したかったからである」!
美しき廃墟の合同写真&物販展 「変わる廃墟展 2020」
日程:2020年3月14日(土)~4月12日(日)
時間:11:00~19:00
休館日:毎週月曜日
会場:TODAYS GALLERY STUDIO.
入場料:600円/3歳以下は入場無料
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